キウイの朝オレンジの夜



 通り過ぎる人に保険会社と自分の名前を言いながらチラシを渡す。初日であるからこんなもんでいい。もし興味がありそうな反応をする人がいれば、アンケートを書いてもらって個人情報を手に入れる。

 既にうちの保険会社で保険を持っている人を見つけた場合、契約のフォローも出来るというわけだ。

 笑顔を貼り付けて、チラシを配り、アンケートをお願いする。この時点では誰も反応がないのが普通だ。だからあたしは断られても気にせずに次々に声をかけていく。

 時計を確認して、休み時間もあと10分か、そろそろ引き上げかな~、などと思っている時に、ふらりと一人の男性社員がやって来た。

 あたしは笑顔で会釈しながら近寄る。

「こんにちは!〇〇生命保険です!」

 明るい声、明るい笑顔。最初の第一歩は必ず愛嬌を振りまくこと――――――

 男性は立ち止まって、無言であたしをちらりと見た。そして小さな声で言った。

「――――・・・へえ、生命保険ねえ」

 あたしはにこにこと微笑む。本日ここで立ち止まってくれた人は一人目だ。だけど、この男の人の目が気になる。ハッキリ言って、いけ好かない目をしている。

「はい、毎週月・水・金でお邪魔させて頂くことになりました。私、神野と申します。宜しくお願いいたします」

 自己紹介文を載せたチラシを手渡すと、ふーん、と言いながらそれをジロジロ眺める。

 ため息をつきたいところだった。だけど押し殺して、笑顔を大きくする。