あたしはそれを見詰めていて、ざわざわする胸の中に広がりつつある温かいものの存在を感じていた。
・・・掛け合ってくれたんだ・・・。自分がコンタクトを取れる、一番上の人の所まで乗り込んで。
営業部長のお気に入りではあるが、やはり支社長に直談判は大変だっただろう。今のここの支社長は仕事の約束に関しては厳しい人だから、下手したら移籍覚悟だ。
担当営業としては、出すぎたことをしたあたしの為に。顧客が亡くなるという、言ってみれば生保会社には日常茶飯事な出来事に、いちいち予定を変えてたら会社は動かない。なのにそれを敢えて言葉に出してくれたんだ。
「ありがとう、ございます」
あたしは食べるのを止めて、頭を下げた。
稲葉さんはテーブルの上を片付けだしながら小さく呟いた。
「・・・あんな顔見ちゃあな」
テキパキと片付ける。あれ?でもあたし、まだ食べてる途中だったんだ―――――と思って、あのー、と声を出す。
「稲葉さーん、あたし、まだ食べてます」
小さな台所のシンクにお皿を重ねておいて、稲葉さんはくるりと振り返った。
「もういいだろ?続きはあとにしてくれ。俺、待てない」
そしてやたらと早く目の前に戻ってきたかと思うと、そのままの勢いであたしの首筋に口付けた。
「・・・っひゃっ・・・!」
あたしはバランスを崩して後ろに倒れこむ。



