・・・でも、だけど。
あたしは目を開けて上司二人を均等に見る。
「・・・お願いします。お客様の所へ行きたいんです」
天井を見上げて、稲葉さんは小さく息を吐いた。
「・・・判った。支社には俺が行く」
宮田副支部長がパッと振り返った。その顔には笑顔。あたしは深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
そして、二人の顔は見れずに自席に戻る。あちこちから視線を感じるけど、何とかそれは気にしないようにして午前中のアポの為の支度をした。
そして黙って支部を出る。あたしは能面のような顔をしていたに違いない。誰からも声を掛けられなかった。
駐車場では春の風が渦巻いていた。
埃が目に入って顔を背ける。笑え、玉緒。今から行くお客様には笑顔を見せなきゃならないんだ。
・・・・笑え、玉緒。



