だから営業は、仲のよいお客様が亡くなったことを、暫く知らない。そして、あとで一人で悲しむことになる。その時にはもう、その人の体はなくなってしまっているのだ。
でも山下家では、おじいちゃんと仲が良かった保険の営業のあたしが、葬式に出たいと思うかもしれないからと先に連絡をくれたらしい。
保険の営業は泣いてはいけない。ただ淡々と、事務手続きを済ませること。それが忙しくて悲しみの真っ只中にいる遺族の為にもなる。それはよく判っていた。だけど、つい、電話口で涙声になってしまったあたしだった。
担当営業なので葬式には出れないが、出棺の時に端から見守らせていただくことにした。
朝礼は終わってしまっていた。
あたしは電話を切って涙が落ち着いてから、下へ降りた。
稲葉さんと副支部長の視線を感じながら事務席へ向かう。
「おはよう、横田さん。今朝見たの、これ。今電話してきたとこ。書類の作成お願いします」
横田さんはあたしを同情の目で見て、小さく頷いた。
「今日持っていきますか?すぐ作りますね」
「宜しくお願いします」
そして上司二人に向き直る。
「今日は朝のアポ一件だけなので、これを優先で動いていいですか?」
稲葉さんも副支部長も黙って目を合わせる。



