その通りですからもういいです~!と繭ちゃんが後ろであたしをひっぱるのに、だまらっしゃい!とあたしは返して稲葉さんを睨みつける。
「異常です!週のアポ件数が10件って、それがちゃんと取れてしまったら一体いつ事務仕事をするんですか!?設計書つくるのにも資料つくるのにも時間はかかるんですよ!職域訪問の準備もあるし!」
職域にしている会社を訪問するのに手ぶらで行くわけではない。少しでも興味を持って貰う為、様々な工夫を凝らしたチラシを作ったりしている。色々準備があるのだ。
それにそれに、アポを10件ゲットしようと思えば30件以上には掛け合わないと到底用意できない。その時間は勿論、そういった事務作業は出来ないではないか。
腰に手をあてて噛み付くあたしの周りではコーヒーを飲みながら他の営業が歓声を送っている。
「頑張って、玉ちゃーん」
「いいぞ~」
「確かに事務作業する時間ないでーす」
「まあ、10件は正直キツイしね」
稲葉さんは野次を飛ばす周りを見回してから面白そうに口元を緩めて、のんびりと言う。
「皆さんの意見は判りましたが、一度でも完達出来た方はいらっしゃいましたっけ?」
全員でぐっと詰まる。



