キウイの朝オレンジの夜



 あたしは脱力して肩を下げる。

「・・・いえ、それは本当に殺してやりたいって思ってるんです。なんせ、あの目標設定は無理がありすぎるでしょ。過労死しますよ、皆」

 支部の成績は上がっていたし、また新人さんが入ってくれて活気があった。稲葉支部長はじょじょに各営業の行動範囲にあわせて目標と名前を変えたノルマを加算していき、皆必死でそれの完達を目指している。

 お陰で給料が上がったわ、ってシングルマザーなんかは喜んでいたけど、独身組みはヘトヘトだった。

 あ、そうだ。つい最近もこんな事があった。

 給料いらないからノルマ件数とアポ件数減らして欲しい、と零す繭ちゃんにストレス発散の喫煙癖がついてしまったので、ムカついたあたしは支部の真ん中で支部長に噛み付いた。

「24歳の女の子がタバコ吸わなきゃ耐えられない職場なんて、支部長の責任ですよ!!」

 すると稲葉さんはしれっとした顔をして言った。

「新谷さんの喫煙癖と目標達成との因果関係を証明してから俺に言え」

 後ろで繭ちゃん本人はおろおろとして喧嘩を止めさせようと頑張っていたけど、ベテランさんが、ほっときなさい、と言ったらしい。これはこれで見ものだから、って。

「ストレスが溜まったからにきまってるでしょうー!!」

「では夕波さんはじめとする一部の皆さんに喫煙癖がないのはどうしてだ?タバコは酒と一緒で娯楽物だぞ、神野。つまり、本人の勝手だ」

 ・・・まあ、そりゃそうだ。あたしだってタバコは吸わない。だけどここで負けると結局ノルマは減らないのだ。