稲葉さんはじっくりとあたしを見てから苦笑した。
「信じられないって顔してるな~」
「・・・信じられません」
また大きなため息をついて、わしわしと髪の毛をかき混ぜている。
「何でだ?結構露骨なこともしてきたはずなんだけど?お前に惚れててやってるんじゃなかったら、ただのセクハラ親父だろ」
―――――――だから、上司のセクハラだと思ってました。って言ったら、また傷付くんだろうなあ・・・。序序に混乱が収まりだし、あたしは考える。
稲葉さんがあたしに好意を示していたらしい痕跡を。
・・・アレとか、アレ・・・。おおお!これもか!でもだって、その時はまったくそんな風に思えなかったんですけど!?なんて、一人でぐだぐだしていた。
あたしがアレコレ考えてる横で、稲葉さんはあーあ、と呟いた。
「・・・何で旅行中なんだ。せっかく押し倒せる状況になったのに・・・」
――――――露骨だ。露骨ですよ、それも。さすが何事にも真っ直ぐな稲葉さん・・・。クラクラと回る頭を押さえて、あたしは小さな声を出す。
「・・・いえ、えーっと、ですね、支部長」
「役職名はやめろ」
「―――――――はい。えー・・稲葉さん、まだあたしの気持ちは確認してらっしゃいませんが・・・」



