めちゃめちゃ近い所に、稲葉さんの伏せられた長い睫毛。あたしの唇に感じる柔らかくて温かい感触。押し付けていたそれを、彼はゆっくりと動かして開ける。そして熱い舌であたしの唇を舐める。

「っ・・・し、ぶ・・・」

 あたしが声を出す為に開けた唇の間に、すぐに舌が突っ込まれる。言葉は消えて空気に溶けた。

 今や大きな両手であたしを固定して、彼は隅々まであたしを味わっている。体温はどんどん上昇する。その煽るようなキスにあたしの心身は急激にとろけて反応しはじめた。

 ・・・稲葉さんが・・・あたしにキス、してる・・・。

 立ったまま抱きしめていたのをキスを止めずに誘導し、ゆっくりと布団に押し倒す。

 体の上に男性の体重がのって身動きを封じられ、それが益々あたしの脳みそを停止させた。

「・・・ふっ・・・」

「―――――言えよ」

 下唇を噛まれた。唾液がまざって顎を伝う。

「どこへ逃げるつもりだ?」

 音を立てて、稲葉さんはあたしの唇を強く吸った。

「俺から――――――」