「泣いてるのか?」

 あたしは部屋に入りながら乱暴に袖で目元を拭った。

「泣いてません!」

 後ろから部屋に上がって、稲葉さんは静かな声で聞く。

「・・・・支部移動ってなんだ?」

「―――――出来ませんから、大丈夫です」

「理由を聞いている」

 あたしは俯いたままで小さく答える。

「職域営業に戻りたくなっただけです」

「どうして?」

「―――――――・・・」

 ため息が聞こえた。すぐ後ろで、稲葉さんが呟くのが聞こえた。

「本当に、強情っぱりだな・・・」

 言葉と同時にあたしの腰に手が回された。

 悲鳴も問いかけも出す暇もなく、くるりとひっくり返されてあたしは稲葉さんの腕の中。そして――――――



 口付けを、されていた。