振り返って顔を菜々に近づけて呟いた。

「支部移動を企んだの」

「はい!?」

 また叫んだ菜々の口を押さえる。

 後ろの席から別の支部の男性営業が顔を覗かした。

「賑やかだと思ったら職域担当のペアか。一緒にいるの久しぶりに見たな~」

 あたしは菜々の口を押さえたままでにっこりと笑う。

「そうなんです~。ラッキーなことにどっちも入賞できましたので~」

「神野は今職界じゃないんだって?」

「はい、家庭の事情で移籍しました~」

 にこやかにしばらく話して、暴れる菜々を押さえつけていた。

「やめてよ玉!化粧が崩れる!」

 ブーイング著しい菜々をやっと離して、あたしはため息をついた。

「どうせ温泉入ったら落とすんでしょ。大声やめてよ」

 手ぐしで髪を直しながら、菜々がぶつぶつ言いながらあたしを睨む。だけど好奇心は押さえられないようで、それで?とまた聞いてきた。

 あたしは菜々の膝からチョコレートを奪取して、口に放り込んだ。

 甘ったるい味が口の中を占領する。うわあ、ダークチョコだと思ったら、これミルクじゃん!

「・・・出来ないって、やっぱり。前の移籍は特例だったから、今度は無理だって。仕事してても辛いから、副支部長には話したんだけど」