チョコレートを一欠けら口に突っ込んで、菜々は手をポンと叩いた。

「あたしって、バカ。客じゃないなら上司に決まってる。他に男いないもの。――――――稲葉支部長でしょ~!!」

 あたしは菜々の頭をはたいた。

 ばしっと音がして、きゃあ!と彼女が悲鳴を上げる。

「玉~!暴力反対よ!!」

 あたしは隣をぐぐっと睨みつけた。出来る限り声を小さくして言った。

「斜め前に営業部長が座ってるでしょうが!やめてよ~、会社の人間と旅行中のバスの中で爆弾発言・・・」

「だからって殴ることないでしょ!!あんた喧嘩売ってるの!?」

 二人でひそひそと喧嘩をしていたら、また前からビールが回ってきた。

 それを額に押し付けてあたしは熱をさます。

「そうなんでしょ?玉、噂の鬼教官に惚れちゃったんでしょ~!?」

 あたしはちらりと菜々を見た。

 菜々はゆっくり頷く。

「・・・はあはあ、やっぱり。その目は相当やばいわね。どうするの?アタック?」

 あたしはため息をついて、窓の外に顔を向ける。

「しない。玉砕は目に見えてる。自虐趣味はないの」

「・・・玉砕するかはまだ判らないじゃん。ま、いいや。それで?」