出入りしている会社で捕まえた年下の彼氏なのだ。

 最初は頑張って聞いていたけど、その内あたしは触発されて瞼の裏を稲葉さんが通り過ぎるようになってしまった。

 ダメダメ!と頭をぶんぶん振る。

 隣で菜々が呆れたように言った。

「・・・一人で妄想の世界に入って壊れるの、止めてくれる?ラブラブの話を聞きたくないならそう言って」

「聞きたくない」

「くそう!・・・はい、りょーかい」

 菜々は膨れて座席にもたれたけど、その内にちらりとこっちを見て口元を上げた。

「――――――誰のこと考えてたの?」

「うん?」

 あたしは空っぽの缶を逆さにふって中身を確かめる。それを隣から奪い取って、菜々は更に聞いた。

「あたし達のラブラブ話を聞いていて、誰の事考えてトリップしてたの?」

「いや、別に」

 菜々はゴミ袋に缶を突っ込んで、チョコレートを開けながらぶつぶつ言い出した。

「・・・石原君、ではないわよね。そんな終わり迎えてあんたは吹っ切れてるみたいだし。・・・お客さんに惚れた、とか?」

「ないない。あんたと一緒にしないでよ」

 あたしは手を顔の前でぶんぶん振る。その勢いでついでに菜々の肩も殴る。

「痛いっ!何するのよ~!客じゃないのか・・・営業はそれが多いのにな。じゃあ、じゃあ~・・・」