あ、でも楠本さんの奥様がうちの会社の元事務さんだったと判ったのが楽しかった。

 子供さんを産んでからは仕事を辞めて家にいるらしい。この人の子供なら大層可愛いだろう、などとマジマジと楠本さんを見詰めてしまった。

 やっぱり営業と事務はひっつきやすいんだなあ!自動的にそれが羨ましいと思ってしまった自分は、何とか封じ込めたけど。

 どうやって北の楠本を手に入れたのか真面目に聞きたいところだ。本人に直接質問して勉強したい。

 自信満々の美人とかそんな人なのかな?と思ってつい質問すると、顔を優しく緩ませて楠本さんが描写した奥様は、全然イメージとは違ってて驚いた。

 むしろ自分に自信のない、照れ屋な、細やかな人みたいだった。

「・・・楠本FP、ベタ惚れですね」

 彼の表情に思わずあたしがそう零すと、彼はあはははと爽やかに笑って頷いた。

「そう、自分でもビックリしている」

 ・・・・羨ましい。

 帰り道の冬の空を見上げる。これから支部に戻って上司との対話が待っている。

 口の中でオレンジジュースの味が回る。病気になった父親の為にもと家族で始めた習慣だった。営業職でよくボロボロだったあたしと妊娠中の姉を気遣って、母親が娘に義務就けたのだ。