キウイの朝オレンジの夜



 都心の支社の男性営業部。優秀な大学を卒業した男性ばかりを集めた営業部で、そこで生き残ればエリート街道まっしぐらを約束された場所だ。

 その代わり、新入社員の時の研修で、約半分が脱落すると聞いている。かなりのスパルタ教育で、強くて優秀な営業社員を育てるのだ。

 そこで、稲葉さんが一番自分に厳しかった?・・・そりゃそうだろうよ。あたしは憮然となる。ヤツは、あたし達女性の研修生にもえぐい教育をしたんだぜ。

 あたしの表情を読んだらしく、楠本さんは苦笑した。そうじゃないんだ、と続ける。

「例えば、お客さんがそれが気に入ったと言ってもその人の状況にあっていないと思えば契約を断ったりしたんだ」

 ――――――――何!?あたしは思わず口を開けてしまい、それに気付いて慌てて閉じる。

 そんな、勿体無い。自分から断るだと!?

 楠本さんは頷く。

「そうだよな、中々出来ることじゃあない。普通は営業職っていったら年がら年中契約のことを考えていて、喉から手が出るほど欲しているものだ。あいつはそれをいつでも破棄出来た」

「・・・真面目にもほどがある・・・ありますよね」

 あたしの呟きに少しだけ笑って、楠本さんはコーヒーを飲み干す。そして言った。

「あいつは営業2年目で痛い思いをしている。ステレオタイプの設計をして、独身の若い社員の契約を取り扱ったんだ。客の言う保険料にあわせた、独身の初めて持つ保険ならこんなもの、という内容のヤツを」

 あたしは頷く。お客さんに本当に興味や関心がない場合、そういうステレオタイプの安い保険を取り扱うことはよくある。とりあえず、これだけは持っておきましょう、という内容のやつだろう。

 医療がついて、ちょっとは貯まり、月の保険料が7,8千円くらいのもの。