「お待たせしました」
小さな声で言って、支部の前の道に路駐している稲葉さんの車の助手席に乗り込んだ。
ここに乗るのはあの日以来。つまり、自分の気持ちに気付いた日以来で、ついでに言えば、あれから稲葉さんの顔を真正面から見たことはないのだ。
あたしは緊張で固くなっていた。
「―――――出すぞ」
ああ、も、遅い、もなく、支部長はそれだけを言って車を発車させる。
あたしは急いでシートベルトを締めた。
駅前をゆっくりと車は走る。あたしは全力で窓の外を注視していた。
隣からゆっくりと稲葉さんが話し出した。
「・・・さて、やっと捕まえたぞ」
「・・・」
「神野」
「・・・・はい」
相変わらず窓の外を向いたままであたしは返事をする。
すると、すぐに言葉は続かずに、隣も沈黙した。
―――――――――うん?一体、何?



