キウイの朝オレンジの夜



 稲葉さんの声が響いた。

「神野、行こうか。車で待ってるぞ」

 あたしは震えないように手を握り締めながら、何とか言葉を搾り出した。

「・・・はい」

 ドアに向かって行きながら、いつも通りに愛嬌たっぷりの笑顔を振りまいて、稲葉さんは職員に告げる。

「皆さんあと4日ですよ、頑張って下さい。そして一緒に旅行に行きましょう」

 皆がはーい、と手をあげて返事をする中、あたしはゆっくりと副支部長を振り返った。

 宮田副支部長は困った微笑を作って、肩をすくめて見せた。

「――――――健闘を祈るわ、玉ちゃん」

 あたしは何とかへらっと笑った。

 のろのろとコートを羽織る。去年のクリスマスに買ったバスローブ型のコートで、気分を上げて仕事をするはずが、どうしてこんなことに・・・。

 支部長への恋愛話をした二人目の大久保さんが、同情的な顔であたしを見ていた。

「・・・仕方ないわよ、スルーがあからさまだったもの。玉ちゃんが全然支部長と喋らなくなったのはやっぱり目立つし。覚悟決めてらっしゃい」

 あたしは深いため息をついて、立ち上がった。