「あの新しい職域で、加入内容を説明して欲しいとおっしゃる方がいらっしゃったんで、説明していたところです」
じゃあついでに挨拶するよ、と返事が聞こえて、あたしがそれに答える前に電話が切れた。
・・・せっかちだ。そうか、会議はもう終わったんだな。
あたしは店に戻って、梅沢さんに謝る。
「すみません、書類の不備で訂正印が必要らしくて上司が今から来ます。すぐ終わらせますので」
梅沢さんはにこりと笑って、手を振った。
「大丈夫よ、私一人でゆっくり出来るから。気にしないで終わらせて」
そして、柔らかい声で、マスター、と呼んだ。
またジン・トニックが追加される。・・・すごーい。あたし、これだけ飲んだら酩酊状態・・・・。
15分ほどで、バーのドアベルが鳴った。
梅沢さんと設計書を挟んでお喋りしていたあたしは振り返る。そして、固まってしまった。
あたしを見つけ、笑顔で入ってくる稲葉支部長の後ろ、稲葉さんよりも身長の高い美形の男性を見てしまったからだった。
・・・何だ?何なのこの二人。セットでいると、芸能人みたい・・・。
「いらっしゃいませ」
バーテンダーさんの声が遠くに聞こえる。あたしの前では、梅沢さんが、あらまあ、と呟くのが聞こえた。



