「凪の事、好きだよ」
その言葉に、ぱくぱくと金魚のように口を開けたり閉めたりしていると、香坂さんは立ち上がり、帰ろうか、と笑って言った。
帰りの車中は、香坂さんも私も、黙ったままだった。
そして、私の家に着き、ドアを開けて車を降り、少し迷った末に、車の中を覗きこみ、
「……あの、香坂さん、寄って行かないんですか?」
言った。よく言った。
「え?」
「だって、この間、私が香坂さんの事を思い出して、結婚を前提に付き合うまで、あの話は保留、って言ってたじゃないですか」
「言ったけど……それが?」
「だから……、その、結婚、の話を進めるのに、ウチに寄って行かなくていいのかな、と」

