「携帯電話を貸してくれないか、美香に連絡したい」
綾瀬が顔を上げた。
さっきまで服のポケットを気にしていると思ったら、携帯電話を探していたのか。
手渡そうとした瞬間、大きな音が飛び込んだ。
玄関の扉を思いきり蹴飛ばされたか、何か大きな物が打ち付けられたような音。その後すぐに、重い衝撃音が響く。
「そっちの部屋に入ろう」
立ち竦む私に告げた綾瀬の顔は、確かにに引きつっている。
先輩が戻ってきたのか、それとも亮が助けに来てくれたのだろうか。いや、桂一かもしれない。様々な不安と期待が胸の中で交錯する。
綾瀬が静かに扉を閉めた。窓の外から差し込む街灯の光が、部屋を露わにする。
あの日、亮と触れ合ったベッドは使われていないかのように綺麗に整えられている。
綾瀬は布団を取り上げて、
「絶対に声を出すな、これに包まって隠れてろ」
と声を押し殺した。黙って頷くと、綾瀬はハサミを握り締めてドアの影に身を潜める。
綾瀬は何か感じ取っているのだろうか。私には聴こえないけど、誰かが部屋に入ってきたのは確かだ。
緊張感が胸を締め付ける。
そっと布団の陰から覗いたら、扉が開いて綾瀬が勢いよく飛び出していく。
「やはりお前か!」
綾瀬の怒声と激しくもつれ合う音に、私は目を塞いだ。足が震えて立ち上がることができない。

