君の知らない空



音を立てないようにカップをテーブルに置いて、彼の方を振り向いた。彼はカップを両手で包んだまま、不思議そうに首を傾げる。


「あの……綾瀬っていう人、知ってますか? 白木さんのお兄さんだっていうことも、知っているんでしょう?」


すると彼の答えを妨げるように、周さんが大きく息を吐いた。気に入らないと言いたげに、私を見下ろしてる。私も負けずに周さんを見据える。


「知ってる、だから何だ?」


たたみかけるような強い口調。予想通りの答えだけど、怯むものか。


「知ってるなら、どうして綾瀬さんを狙ってるんですか? 菅野さんという人に頼まれたんでしょ? それと……白木さんのお父さんが行方不明だというのは、知っているんですか?」

「ああ、知ってる。お前もよく知っているんだな? 誰に聞いた?」


ぞくっとするような目で、周さんが見てる。私に黙れと言うように。


ポケットに入れた手が、何かを探るように動いてる。もしかしたらナイフか何かが出てきて、私に突きつけたりするんじゃないか。なんて、想像したら急に周さんが怖く思えた。


「誰にも聞いてません、白木さんの知り合いなら、綾瀬さんを狙うのはやめてください」


恐怖を振り払うように、強く言い返した。眉をしかめた周さんの手が、ぴくりと動く。


ポケットから抜いた手には、携帯電話が握られている。震動している携帯電話の画面に目を落として、周さんは口を尖らせた。でも、なかなか出ようとしない。


じっと見つめる私の視線を避けるように背を向けて、周さんは携帯電話を耳に当てた。そして急に、知らない言葉で話し出す。


奇妙な気持ちで周さんの背中を見ていたら、彼がソファから立ち上がった。