ヤヨイは、自分の主人である婦人の事を心から敬愛していた。


というのも、捨て子であったどこの馬の骨とも解らぬ自分を拾ってくれたのが婦人なのである。


15になるまで不自由なく学校にも通わせてくれた挙げ句、使用人としての職も与えてくれた。


それも最初はヤヨイを養子に入れようとまで計らってくれたのだ。


血筋を重んじるこの国でそれが叶う筈もなかったが、ヤヨイにとってはその気持ちだけで十分だった。


つまり、ヤヨイにとって婦人は女神とも言える存在なのだ。


その主人の好物を、それも上等な物を手に入れ、少しでも早く婦人に渡そうとヤヨイは足を早めた。


そして、少し息が上がりながらも婦人の部屋の前までたどり着いたとき。


「……おっしゃっている意味がわかりません!」


普段は穏やかな婦人の、怒りを露にした声が扉越しに聞こえてきた。