そめと、何人かの侍女に伴われて訪れた浴室もまた質素なもので、脱衣所は何か独特な匂いのする湯煙でおおわれていた。
その匂いは決して嫌なものではなく、もっと匂っていたくなって息を吸い込む。
「不思議な匂いでございましょう?」
そめはにっこりして言った。
「ここの湯は露天風呂で、源泉から直接流れ着くようになっていますから、源泉の湯独特の匂いなのですよ。」
それを聞いて、私は一気に湯浴みが楽しみになった。
打ち掛けを脱いで浴槽を覗くと、本当に露天風呂だった。
周りは木々が沢山植えつけられていて、夜風の音で木の葉がさわさわ揺れる音がして、中々に風流だ。
岩肌に囲まれた湯船に身を入れて足を伸ばすと、まるで生き返る心地がする。
ふと見上げれば、満点の星空。
ため息が出るほど美しかった。
この景色に出会えた事が、嫁いだ唯一の利点だと、私は自分で頷いた。
