少し前の出来事を懐かしく思い出していた私に、そめは不思議そうな顔をした。
「なにか良い事でも?」
はっとして首を横に振ると、そめはにっこり微笑んで言う。
「とにかく!わたくしにはそのようなお言葉づかいは無用にございますよ。」
そめに押されるかたちで、私は渋々頷いた。
「じゃあ、そめ。御簾を上げて、景色をみせてちょうだい。」
「はい。どうぞ~!」
そめはザァっと音を立てて御簾を捲り上げた。
そこにあったのは、無理に麗蓮を奪おうとした卑怯な弦黒ではなく、人々が明るく賑わう、光に満ち溢れた姿。
そこに私は、麗連を思い出さずにはいられなかった。
人々の希望に満ち溢れ、たくさんの商人たちが行き来していた、活気に満ちた麗蓮を。
不思議そうに町の様子を眺めていた私に、そめは静かに、そして誇らしそうに言った。
「李玖様は、この国に悪い感情しかお持ちでないでしょう。それは当然のことですし、弦黒が受けるべき報いでもあります。なにせ、たくさんの国を滅ぼして国土を広げてきたのですから。
しかし、この国の民は皆、そんな王族の方々を憎んではおりません。王族の方々は常に、民の未来を考えて行動なさってくれているからです。
ですから李玖様も、そんな弦黒を少しでも好きになってくださればうれしいです。」