一時間と少しして、李玖の支度は整った。


豪奢ではあるが決して品を失わず、胸元の銀の細い首飾りとよくあった打ち掛けは、裾から少しずつ色が乗り、腰から首元にかけては見事な深紅に染まっている。


「さすが、麗蓮の薔薇姫とあだ名されるだけのことはありますわ・・・。」


腰紐を整えていた年若い侍女がため息とともに呟いた。




そんなあだ名が存在するなど知らなかった李玖が周囲を見渡すと、年長の侍女が満足げに頷く。


「これなら、彼の大国へ送り出しても見劣りしますまい。」




その言葉が若干勘に触った李玖は少々眉をしかめたが、それに気付く者はいなかった。






そのとき、扉が叩かれる。


「入りなさい。」


すると、何人かの父の従者が、嫁入り道具や持参金代わりの宝石を持ち出しに来た。




「さ、姫様もそろそろ。」


従者の一人に促され、李玖はもう二度と見ることの無い自分の部屋を後にする。

















詠些(えいさ)二年五月、一輪の薔薇が、その故郷を発った。