テーブルの上に置いていた携帯が不意に鳴った。

小説に栞を挿み、携帯を手に取った。

司からのメールだった。

内容を確認すると、今から出てこれないか、ということだった。


あれから、司とはよくメールするようになった。

これといった連絡とかではなく、何となくのメールだった。

今回のもそんな感じだろう。


返事をして、準備をする。

準備ができたのとほぼ同時に、海岸に来てというメールが送られてきた。


大学のすぐ近くに海岸がある。

綺麗な海岸ではないため、泳げはしないけど、散歩にはちょうどいいものだった。

それでも、あたしの地元の海よりは綺麗だ。

ここで部活でバーベキューなどもやったり、同学飲みも開催されたりした。


部屋を出て、大学内を抜ける。

部活で使うグラウンドを横切ると階段があり、それを上って少し歩くと、海岸が見えてきた。

普通は誰もいないはずの雨の海に、一人の姿が見える。

司だ。

こちらに気付いたのか、手を振っているのが分かった。

それに手を振り返して、近づいた。


「やー、ありがとうね」

「ううん。暇してたから大丈夫だよ」

「ちょっと歩こう。雨だけど散歩。雨で部屋から出てなかったから、身体がなまっちゃって」

「いいよ」


そう返事をすると、司は歩を進め始めた。

それに付いていくようにあたしも歩きだした。


海は荒れていなかった。雨が降ると同じく風も強いのだが、この3日間は風もない。

薄暗い色はしていたけど、砂浜に打ち寄せる波は静かで穏やかだった。

海へと向けていた視線を司の方に変えた。


「その傘、綺麗だね」


司の傘を指差し、声を掛ける。

「でしょ」と自慢げに司は傘を軽く上げた。

外観は普通のビジネスマンが持っているような黒い傘だけど、中には青空のプリントされた綺麗な空が描かれていた。


「気分は快晴、て感じ」

「何それ」


自然と笑顔が出た。こういう雰囲気が好きなんだろうね、あたしは。