「ちょっと飲み物買ってくるね。何かいる?」

「あ、お茶お願いしまーす」

 奈々美がコンタクトを外しながら手を挙げた。

「あたしはいーや」

「うちも大丈夫」

「じゃ、行ってきます」


部屋を出て、エレベーターへと向かった。

自動販売機は1階にしかない。

あたし達の部屋があるのは4階。

下のボタンを押すと、6階にあったエレベーターが動き出した。

すぐに4階に着き、扉が開いた。

それに乗り込む。

中で1階の数字を押して、“閉”のボタンを押した。


直通で1階まで降り、入口近くにある自動販売機に向かった。

お金を入れ、お茶と紅茶を買った。

ペットボトルの蓋を開け、紅茶を口に含んだ。

ほのかな紅茶の香りと甘みが口に広がった。


ロビーのフロント傍にあるソファーに腰を下ろした。

夜になっても日中の暑さが残っている。

クーラーがかかっていても少し暑さを感じた。


ふとポケットの携帯が振動した。

奈々美からの催促メールかと思い、携帯を開いた。

そこには見たことないアドレスからのメールがあった。


……誰だ?

見たことある……ような、ないような。


とりあえず開いてみると、“久しぶり。西医体頑張って”との内容が書かれていた。

暫く考えても誰だか分らなかったので、その内容で返信した。

それに対する返信はすぐに来た。


“司だよ”


「……あぁ」


どこかで見たことがあると思ったら、2ヶ月前のあのメールのアドレスだった。

その後少しだけメールをして、ソファーから立ち上がった。

半分ほどまで飲んだペットボトルを閉め、エレベーターで4階に向かった。


エレベーターの窓からは夜景が覗ける。

もう深夜も近いのに、明々と街の電気は輝いている。

あたしの地元も、ここのような眠らない街の一つだ。

懐かしい気分になる。

前まで感じていた少しの苦しさも辛さも、もう感じはしない。

何でかは分からなかったけど、感じなくなった。

忘れたわけではないけれど、なんでだろう。


エレベーターの動きが止まり、扉が開いた。

反対を向いていたあたしは振り返ってエレベーターを出て、自分の部屋へと戻った。