結局、試合は引き分けだった。
後半終了間際にコーナーキックから同点弾を決められていた。
祐輔や康太が悔しそうに話をしている。
空になったコップを洗っていると、水が足りなくなった。
量的にもあと一本分あれば足りるはず。
美咲に声を掛け、水を汲んでくると伝えた。
片手にペットボトルを持ち、小走りで水道まで向かう。
途中全学サッカー部の横を通り過ぎる時に、「紗雪」と声を掛けられた。
声の方を向くと、ユニフォーム姿の司がいた。
「え、サッカー部だったの?」
足を止めて、司に尋ねる。
「あれ、この前言わなかったっけ?」
「言ってないよ」
笑いながら、「そっか、ごめん」と手を顔の前で合わせた。
「てか、気付かなかった。何回も練習時間被ってたのに」
「まぁ、練習中いるとこ遠いしね。それにそんなに意識してなかっただろうからね」
「だね」
お互い笑顔がこぼれた。
後ろから、「司ー、集合」という声がして、「またね」と司は走ってそちらに向かった。
あたしも水を汲みに水道まで少し急ぐ。
蛇口を捻って、勢いよく出る水をペットボトルに入れていった。
汲み終えてから戻る途中、飛行機雲がどうなったか、もう一度空を見上げた。
綺麗な白線だったそれは、周囲の青に散るようにぼやけていた。
それでも真っ直ぐと伸びていて、相も変わらず綺麗なままだった。
空いている手で、その十字ラインをなぞるように手を上げる。
うん、綺麗だね。
心の中でそう呟き、あたしは歩を進めた。
