call my name




「あれ?」


声に出てしまい、指を差してしまった。

ベッドの脇に腰を下ろしている人。

どこかで見たことが……。


「あれ、紗雪さん。久しぶり」


笑顔で対応してきた相手。

あのネックレスを拾ってくれた人だった。


「どうも、二度目まして」

「三回目だけどね」とその人は笑った。

「知り合いなのかよー」と言いながら、祐輔がその人を飲ませに行った。

適当なところに座り、他の知らない人達と軽く挨拶を交わした。

飲まされている相手を見る。

少し長めだった緩いパーマのかかったような髪は短めにきられていたが、暗がりで見た整った目鼻立ちはそのままだった。

だから分かったのかもしれない。

康太を含めた他の三人は、「お前、飲ませてばっかで自分も飲めー!」と祐輔を飲ませにかかった。はじかれるようにその人は逃げてきた。


「男ばっかでごめんね」


苦笑いをしながら話しかけてくる。


「いえいえ」

「1次会では何人か女の子もいたんだけどね。全員実家生だから帰ったのよ」

「そうなんだ」

「あ、名前言ってなかったよね?」


ふと思い出したように彼は言った。

あたしの名前は知られていたけど、あたしは彼の名前を知らなかった。


「まぁ。4月に会って以来だから」

「川本司です」


小さく会釈して、その人、司が手を差し出してきた。


「白石紗雪です」と返事をして、握手を交わした。


それから、あの日の話を少しした。

やはり、美咲が言ったようにあたしを花見のところまで連れていってくれたのは司だった。

恥ずかしい話、潰れていた状況の自分を見られていたということ。

あたしの名前を知っているのは財布の中の学生証を見たから、ということ。

全学の人文学部であるということも知った。


飲み会自体はあたしが行ってからすぐにお開きになった。

全員が飲まされ飲まし、あたし以外は祐輔の部屋で寝ていくということだった。

送っていこうか、と司が声を掛けてくれたが、近くだからいいよ、と断った。

それに、司が結構しんどそうな顔をしていたということもあったから。

これでは送ってもらったはいいものの、逆に司を送らなければならないという可能性もあったためだ。


久しぶりに楽しい飲み会だった。

時間は短かったが、頭の片隅にあった疑問が解けたということもあるし、何より疲れが昼寝したことによってなかったことも大きい。

夜道を自転車で駆けていく時に感じる風が涼しくて心地よかった。