それはそれは、お日様がぽかぽかとあたたかい春のことでした。主人はいつものように、砂糖を二つ入れたコーヒーを飲みながら、わたくしのカップにミルクを入れたのです。
 カップに口をつけて舌鼓をうつわたくしの耳に、どたどたと慌ただしい足音が聞こえてきたのです。
 たんぽぽのような黄色の服の娘が、階段を掛け降りてきたのです。娘はぶつぶつと文句を言いながら、テーブルに並べられた皿からぶどうを一つ、指で摘んで口に運んだのです。皮は向いてありました。
 そのまま娘は、ぶどうを飲み込むより早く、家を出ていったのです。