「茅乃ちゃんには悪いことしたわね。
まさか、あんたが今日のこと忘れてるなんて思ってもみなかったから。
そりゃ、デートできると思ってたのに、急に法事で行けなくてがっかりする気持ちもわかるけど」





 何も言っていないのに、母さんはツラツラと話を進めていく。


 デートができなくてがっかりとか、確かにそういう気持ちもあるけど、俺がため息吐いている原因はそんなことじゃない。


 昨日の一件のことだ。


 だけど、それを親にぺらぺらと話すつもりもなく―――…。


 勝手に一人で、しゃべっている母さんのことはほっておくことにした。


「でもね、圭史。
私、思うのよ。
あんたが茅乃ちゃんと結婚してたら、ここに茅乃ちゃんを連れてくることもできたのよ。
ほら、結婚したら茅乃ちゃんは身内になるんだし」





 その話はまだ続いてたのかよ。


 未だに俺と茅乃を結婚させようとする計画は、茅乃の母親と俺の母親の間で続いているらしい。


 正直俺は、別に茅乃と結婚してもいいと思っている。


 だけど、まだ学生の俺は茅乃を養えるわけもない。


 すると、親の援助を受けなくてはいけないという状況に陥ってしまう。


 それは、嫌だった。


 だから、結婚はしたいけど、俺も今のところは、茅乃との結婚はまだ早いと思っていた。


 茅乃は全力で、結婚を拒否してたけど―――…





 ふとした時思う。


 茅乃は俺のことが好きなのかと―――…。


 付き合っているのだから、当然そうなのだろう。


 茅乃の性格上、好きでもない奴と付き合うとは思えない。


 だが―――…。


 一向に、俺に愛情らしきものを見せてこない茅乃を見ていると、不安になってくるんだ。


 っていうか、なんで俺がこんなに不安に思わなくちゃいけないんだよ。


 茅乃のくせにっ!


 俺を悩ませやがって!





 不安が、いつの間にか茅乃に対しての怒りに変わる。





 あいつ、絶対に戻ったら、めちゃくちゃいじめてやる!