「お、おい、ちょっと待てよ」
「なんだよ。俺の分は済ませただろ? まだ、何かあるのか?」
呼び止めたものの、そこまで圭くんに言われると男の人も困ったみたいで、「あ~…」と言葉を濁していたかと思うと、「ない」とがっくりしながら小さな声で呟いた。
その声を聞くと、圭くんは彼のことを一瞥した後、「じゃあ、帰るから」と一言告げると、傍に置いてあった鞄を肩にかけ、部屋を出て行こうとした。
そんな圭くんに、「水無月くん!」と呼び止める声。
ふと立ち止まり、圭くんだけじゃなくあたしも振り返ると、唯一の女の人が困ったようにこちらを見ていた。
「―――なに?」
ただ聞き返した圭くんに、彼女はしきりにそれほど長くない髪を耳にかける仕草を見せながら、目を彷徨わせる。
どうやら、呼び止めたものの、彼女にはその先に続く言葉はなく、ただ無意識のうちに呼び止めてしまったようだった。
「何もないなら、もう行くけど…」
「あ…、うん……」
小さく頷く彼女。
だけど、その時に見えた彼女の表情の変化に、あたしは彼女の想いを垣間見てしまった。
この人――…
「ほら、行くぞ。茅乃」
「えっ!?」
呆然としていたあたしは腕を強引に引っ張られて、ハッと意識を戻す。
よくわからない感情が自分の胸の中で燻っていて。
それなのに、そんなあたしの複雑な心中なんて気づかない圭くんは、あたしの腕を掴んだまま、そのまま部屋を後にした。


