「あ、あたしは家に帰る!!」





 俺の返事に、何を話しているのか理解した茅乃が慌てて俺から携帯を掴んでそう叫ぶ。


 だけど、さすがあのおばさん。


『―――というわけで、圭くん、お願いね~』


「はぁ!? ちょっと、ママ! 勝手に何を! あたしは全然了承してないんだから!
 ・・・あ・・」





 茅乃が話しているにも関わらず、おばさんは電話を無情にも切った。


「ほら…」





 放心状態の茅乃に、俺は持っていた携帯を返そうと渡す。


 だけど、茅乃は力なく携帯に視線を向けていたかと思うと、いきなりバッと携帯を俺から奪い取ると、慌てて電話をかけなおす。


「~~~っ! なんで、出ないのよ~~~!!!」





 イライラ感マックス状態なのが、見て取れる茅乃。


 だけど、納得していない茅乃から折り返しの電話がかかってくるのは、おばさんもわかってるだろう。


 だから、あえて出ないというのもわかるけどな。





 俺はそんな茅乃にそっと近づくと、軽く肩を叩いた。


「諦めろ」





 まさしく、“ガ~~ンッ!!”という表現が正しい、目と口を開けて放心状態の茅乃を見て、俺は笑った。


「茅乃。熱い夜を過ごそうな」





 追い打ちをかけるようににっこりと微笑んでやると、茅乃はぴょんと飛び跳ねて壁際へと逃げ込んだ。











 突然、舞い込んできた幸運。


 茅乃のペースで待ってやるつもりではいるが、この幸運をみすみす逃すほど、俺は優しくはないんでね。





 じ~っくりと、熱い夜を過ごそうじゃないか。