「笑えない冗談だな。」
「笑わないでよ、冗談じゃないから。」



掴まれていた手に力が入る。



「俺、本気だよ。」
「―――!」



ぐいっと腕を引かれ、背中が机と密着した。
直也が覆い被さるように俺を見る。


押さえつけてくる力は予想以上に強くて、外せない。



「何すんだよ。」
「俺が本気だって分かってもらおうと思って。」



笑った顔が近づく。



直也の唇が重なった瞬間、口の中に血の味が広がった。

直也が慌てて唇を離す。


「痛っ……噛まなくても良いだろ。」
「お前の気持ちは分かった。けど悪いな、俺は先輩しかいらないんだ。」
「……俺じゃ役不足?」



鋭い眼差しが揺れた。



「ああ、悪い。」
「ズリー……。嫌いって言われた方が諦めつくのにな。」



パッと手が解放される。
直也が俺の上から退けた。




何も言わず俺は部室を出た。



だから


「あーあ、本気だったのにな。」


という直也の呟きを俺は知らなかった。