「ごめん…っ。遅くなった。……っ。」


教室から出てきた妃稲は泣いていた。


でも、それが悲しいだけの涙じゃないことを悟った。


…前に進めるようになったんだな。



俺は腕を伸ばして、妃稲を抱きしめた。


「綾!…」


「何にも言うな。…もう少し、このままで。」



しばらくそうしていた。


腕を離したときもう妃稲は泣いてなかった。


「綾、……聞いてほしいことがある。…昔の話だけど。」



妃稲のその瞳はしっかりとした光を帯びていた。



「ああ、どんなことでも聞く。……」



お前がもっと前に進めるようになるんだったら……。