「いいじゃん。」
私が抵抗をやめると腕の力が弱まった。
「何がよ。」
いいことなんて何にもないんだけど。
「そのままでいいじゃん。なんで口をそんなに隠そうとするの?」
「...っ。」
優しくなだめられるような口調で言われて反抗もできなくなった。
言わなきゃ駄目なの?
絶対いや。
親友の京香にさえ言えていない事なのに。
昨日あったばかりのやつに話すことなんて絶対にできない。
「やっぱ、簡単には口開いてくれないか。」
「...。そりゃあ、そうでしょ。」
淋しそうに笑った野上稜に話された私の左腕は行き場がなくてぶらりと下がった。



