*************
さっきから翼は黙りっぱなしだ。
和哉が二組に分ける時翼はあたしの手を引っ張って、抱き寄せた。
何がしたかったかまでは、わからなかった。
けど、その行為に不覚にもドキドキしたあたしはきっと、翼が好きになったんだと思う。
こんな状況のなかで誰かを好きになるなんて非常識かもしれない。
ねぇ、翼?
あたし、翼のこと好きになっちゃったみたい。
だから、
だから…絶対にあのことは──
「…なぁ。」
「ん?」
翼はあたしの歩数にあわせることもなくあたしの一歩先を歩き続ける。
「…あのことは、言わないほうが俺らにも、あいつらにも…」
「うん。結依もそうおもってたょ。でも、言わなくちゃいけなくなったら、結依はみんなに言うつもりだよ。それならいいでしょ?」
「物分かりの良い奴じゃん。」
「あははっ。いちをこの世界を上手に泳いできたし…」
あたしは渇いた笑いで翼に返した。