兄を2階の部屋へと母と抱えて上げた。


兄の部屋に入るのは久々で、兄らしいきれいに片付いた部屋だった。


裁縫道具が置いてあり、きっとばれないようにとれたボタンをつけていたのだ。

兄はその日から外へ出なくなってしまった。



兄の体には古いあざと新しいあざがあり、ずいぶん前からいじめにあっていたことがわかった。



家族は家族として機能していなかった。


兄以外、きっと自分のことしか考えてなかったからだ。


みんな背を向けて。



この事を機に家族はお互いに少し歩み寄り、父は早く帰宅する日が増えた。


それでも、私は母の嫌う長い髪を伸ばし続けた。


ささやかな抵抗だった。



「咲、いい加減髪切りなさい」


母は、しかめっ面で言う。


「せっかく伸ばしたんだもん。切りたくない…」


私は食パンをかじりながら言った。


「あなたって子は…!」


ヒステリックな声をあげる母に、


「朝からよしなさい」


父が言った。