あのこになりたい

「正直、あまりのことにちょっと…」


兄はうつ向いたまま言った。


「お、お兄ちゃん…若菜さんは産みたいって…」


私は、兄に言いかけて黙った。



兄は泣いていた。



「ごめん…考えさせてくれないか…」


兄は静かに言った。



「私の気持ちは変わらないから。文くんの気持ち決まったら聞かせて」


若菜さんは兄にそう言った。


若菜さんは泣いてなかった。


兄を置いて私達は部屋を出た。


私とシュンが若菜さんを送る中、沈黙がただ続いた。


「若菜さん…ごめんなさい…」


妹として謝った。



「文くんを責めないでね。私達二人に責任があるんだもん…。私は文くんを信じて待つから」


若菜さんの言葉には力があり、私はただ頷いた。



「若菜…体冷やすなよ。階段バタバタ降りるなよ…」

シュンが親みたいなことを言うから少しおかしかった。



「俊二…咲ちゃん大切にしてね」


若菜さんはシュンにそう言った。