あのこになりたい

「今でもだよ…家ではね」

私は、少し遠くを見て言った。



「あぁ…母さん厳しそうだったもんな」


彼の言葉に少し驚いた。



「みんな優しそうって言うよ?」


私は彼に言うと、


「言葉や行動はそうかもしれないけど…やっぱり目は笑ってなかったよ」


そう言った。



「そっか…」


私は初めて人に理解してもらえた喜びを感じた。



「お前の母さんのことこんなふうに言っちゃいけないよな…ごめん」


彼は慌てて謝ってきた。



「ううん。お兄ちゃん以外で初めて理解してくれる人に会ってなんか…変だけど。嬉しかったから」


私がそう言うと彼は少し笑った後に真面目な顔をした。



「でも…お前の母さんなんだから…」


そう言った。



「…お前って言わないでよ」

私はがっかりしたような、ムッとしたような気持ちになって話題を変えた。


「あ、ごめん。名前は…」

「咲。あなたは?」


私は少し力を入れて彼を見た。


「俊二」


駅からあてもなく歩きながら話していたので気づくと家の近くまで来ていた。