木の根に脚をとられ、下へ落ちそうになったのだ。
何かを掴もうと、慌てて出した手は虚しく、空を掴んだ。

一瞬浮いた気がしたが、重力には逆らえずそのまま逆さまに落ちていく。
「うわあ……!」

幸いにも私は土と枝にまみれながら、順調に滑っていった。

ガリッと口から音がして土を食べた事に気がつく。
吐き出す間もなく、枝が頬を引っ掻いた。
ぽたぽたと血の流れるのを感じる。
さほど深くない傷だろうけど、血を感じて、何だか寂しくなった。
寂しいというよりは、悲しいというのだろうか。

血は…嫌いだ。


ガツンッ――
鈍い音が響いて、私は固くつぶっていた眼を開けた。
と、同時に頭に鋭い痛みが走る。
「うあ…痛い……」

何にぶつかったのかと思えば、それは…

「お墓…?」

誰かの墓だった。

土が少し付いてしまったのでそれを軽くはらう。

「汚してすみません…」

 折角の墓を汚すものではない。
 しかし、私は運が悪いのか良いのか、取り敢えず墓のおかげでこれ以上滑る必要はないようだ。

けれど、何故墓がこんな所に…?

 ここを天国だと仮定するなら、墓がある筈がない。
天国は花に溢れた―
まあ、色々な天国像はあるがいくらなんでも天国に墓はないだろう。

 それともここは天国ではないのだろうか。
なら何故私はここに存在していられるんだ。

疑問が渦を巻く。

「…まあいいや…」
 ない頭でぐるぐる考えても仕方がない。
 それよりは、今ここにいられる幸運に感謝をするべきだ。