「ん……。」

 柔らかい風と暖かな光を感じて、私は目を開けた。
鳥の囀りさえ聞こえてくる。
 安らぐ環境だけど、素直に喜べなかった。
むしろ、
おかしいな…
私はそう思った。

おかしい、だって私がいたのは古ぼけた屋敷の中の埃臭い部屋の冷たい床の筈。

「あれ?」
意識がはっきりとしてきて、自分の手を見て私の疑問は尚更深まった。

「血がついてない…」
それに、吐瀉物も。
 身体を見てみる。
お腹の傷、脚についた液体もなかった。

今度は頭を触ってみた。
けれどもやはり、ぬめりのある気持ちの悪い感触はなかった。

いよいよおかしい。

そういえば…、私は今更ながらに最も重要な事に気がついた。
身体のどこも痛くない。
何故そんな重要な事に気がつかなかったのだろうか。
きっとあまりにも自然だったからだろう。

「んーっ……」
ためしに、伸びをしてみる。
筋肉が引っ張られる。

次いで、立ち上がってみた。
どこもおかしくない。
痛くも痒くもない。

もしかして私は所謂、天国という場所にいるのだろうか。
歩きながらそんな事を考えた。

花の芳しい香りが鼻腔をくすぐる――
・・・事は無く、只、若草の香りが漂っている。

目の前には街が見えた。
小さく、おぼろげにだったが。

「うわあっ」
突然私は何とも素っ頓狂な声を上げた。