俺はボリボリと頭を掻きむしりながら、空を見上げた。
「ったく」と小さくこのクソ青いに愚痴る。
「死神に夏休みは無しかよ」
俺は毎年、この質問を閻魔(エンマ)とやらに投げかける。
「疲労を感じないお前らに休みなどやる意味がない、休みはなお前、疲労を取り除く為にあるんだよバカ」
「バカってなんだよ」
「贅沢言ってる間に黙って働け、お前は」
毎年、俺の夏は閻魔とのこの会話で始まる。
まるで夏が始まる前にやる儀式のようなものだ。俺も、何となくこの会話をしないと夏がきたという感じがしない。
今年も夏休みは無し、というか多分永遠に来ない。
といっても、世の中夏休みだろうが死人は絶えない。この世に生物が存在している限り、死神の需要は消えないわけだ。
今日も病院で一仕事待っている。
俺は持っていた手帳を取り出し、そこに記されたその日の仕事内容を確認した。
死神の仕事は一年単位で決められる。
俺の手帳には今年の12月31日までの死者の予定がびっしりと刻まれていた。
人間の死ぬ時間は決められているから、早く終わらせるわけにもいかない。
しかも、死ぬ人間は事前に確認をとって置かなければならない。 殺す人間を間違えたりしたらとんでもない騒ぎになるからだ。
また、その人間が死に値する者か見極めるのも死神の役割だが、この仕事は大半の奴らがやらない。
やろうがやるまいが、あまり支障はないし、黙って人間を観察するなんて、そんな退屈な作業をやろうとする死神も滅多にいない。
とりあえず、手帳に書かれた人間を片っ端から始末していく、という考えが俺達の間では普通だった。
俺は手帳を閉じると、大きく伸びをした。
「さて、今日も一仕事やるか」

