人間、珍しい事や見た事のない物を見た時は、誰しも興奮するものだ。そう、好奇心が心の中をを掻き回す。



「それじゃあ……もし指定時間に殺せなかったら?」

「何もないさ」



一点の曇りもなく、奴はさらりと答えた。
俺は顔をしかめる



「何も?」

「そうだ、何もない。お前が何もしなくても、どのちみち佳山は死ぬし、テストに失敗したからって、お前が死ぬ事はない。」



俺は足と腕を同時に組むと、ジノを軽く睨んだ。



「いくつか質問してもいいか?」



ジノは「どうぞ」と言わんばかりに腕を組んだまま肩を竦める。



「俺が殺さなくても佳山はどのみち死ぬ。どういう意味だ」

「意味も何も、言葉通りさ」



俺は奴を更に力を込めて睨む。ふざけんな、ちゃんと答えろ。



その視線に気付いてか、奴が緩んでいた目を少し引き締めた。

と言っても、口元からは、まだ白い歯を覗かせている。



「あんたの言いたいことはわかってる。いずれ死ぬ人間をわざわざ殺したって意味が無い、そう言いたいんだろ?」



まぁ、確かに無意味だな。とジノが呟く。
同時に、奴の引き締まっていた目元がまた緩んだ。



「“殺す事”それが目的ならな」

「殺しが目的じゃないのか?」



部屋が静寂に包まれる。夏だと言うのに寒気がする。

僅かに、鳥肌が立つのがわかった。


冷たい汗が頬を伝って首元へ落ちる。自分が唾を飲み込む音さえ、はっきりと聞こえた。


ジノが今までにない笑みを浮かべていた。


なるほど、こいつは確かに疫病神でも悪魔でもないな。 と、改めて確信する。


疫病神はこんな風には笑わないだろう、



悪魔はこうも巧みに笑いを使い分けられないだろう。


見えるのは、剥き出しになった汚れ一つ無い純白の歯。


漆黒の髪の奥に隠れたその瞳と自分の視線がぶつかった時、その瞳は死を連想させる。

絶望を与える。


間違いない、こいつは


――死神だ。