自転車を乗り捨てるように駐輪場に放ると、自分でも信じられないくらいの速さで俺は走った。
今の自分なら、間違いなく体育祭で英雄になれるだろう。 そう思ったくらいだ。
頬を通って首を滴る汗を拭うのも忘れて。
着いた頃には俺のTシャツは汗でぐっしょりと濡れていた。
電話は叔母さんからだった。
――音穏くんお願い……今すぐ病院に来て。
電話から聞こえる、あの独特の高く掠れた声を、小さく震わせて彼女は言った。
「叔母さん!?」
入口の待合席に叔母さんの姿はあった。。
「どうしたんですか? 何があったんですか?」
俺は直ぐさま叔母さんの元に駆け付け、彼女の肩を揺する。
叔母さんはそこで初めて俺に気が付いたように、俺を見るとポロポロと涙を流した。
「和美が……」
「姉さん? 姉さんに何かあったんですか!?」
叔母さんは泣くばかりで何も答えてはくれない。
とりあえず、姉さんが心配だ。俺は姉さんの病室へと急いだ。
勢いよくドアを開ける。
「姉さん!」
返事はなかった。
それもそのはず、姉さんは疎か病室には誰一人としていなかった。
あるのは奇麗に片付けられたベット一つ。 姉さんの使っていたベットだった。
「……そんな」
姉さんが死んだ?
「お前、今すんげーマヌケな顔してる」
どこから現れたのか、死神がへらへら笑いながら俺の顔を覗き込む。
「姉さんはあと35日生きられるんじゃなかったのかよ」
俺は死神を睨んだ。
「バーカ、誰も死んだなんて言っちゃいねえだろうが」
舌につけられたピアスを覗かせながら、奴は少し不機嫌に答える。
だがすぐにニヤニヤと笑い出し「こっちだ」と言い、俺は死神に別の病室へと案内された
その病室は以前の病室とは違い、中に無菌室があった。
ガラスの向こうには無数のチューブを体に繋がれた姉さんが寝ている。
「姉さん!?」
俺は思わず両手をガラスに押し付けて叫んでいた。

