「そんなに走んなくても・・。」

「だって遅刻嫌じゃん!」

「ちょっと待ってって。」

劉は、あたしの身体をひょいっと抱えて

捕まえた。

「な、何すんの!?」

「空飛んだほうが、速えーだろ。」

そういった瞬間、劉の背中から、黒い翼が生えた。

「大人しくしてろよ?」

「う、うん・・・。」

ばさっと翼の音がして、あたしと劉の身体は

大空に浮き上がる。

「きゃっ・・・。」

「どした?」

「こ、怖っ・・。」

「んじゃあ目ぇ瞑っとけ。」

少しだけ冷たい、気持ちいい風を

頬に感じる。

「着いたぞ。」

「ほ、ホント・・・?」

「もう、目ぇあけてもへーきだろ。」

そう言われて、そっと目を開けた。

「・・・ありがと。」

「俺は職員室寄んなきゃだから。またな。」

「・・・うん。」

「そんな寂しそうな顔すんなって。」

「し、してないし!もう知らない!」

あたしは劉に背を向けて

靴箱まで走った。



「あっ。鏡ちゃんっ・・。」

「優奈ちゃんっ。ギリギリですねっ・・。」

「あれ?鏡ちゃん、手ぇ冷たくない?」

「優奈ちゃんこそ。私は、祥〔しょう〕君に送ってもらったんで。」

「・・・祥?」

「狐子のことです。名前が祥って言うんですよ。」

「ふーん・・。」

劉とおんなじだ。

狐子にも、名前があるんだ。

「優奈ちゃんは、どうしたんです?」

「え、えっと・・・。」

・・・い、言ってもいいんだろうか・・?