「あ、ちょっと待てよ」

「……」


あわてて背中に掛けられる声を無視して、あたしはすばやく本屋のドアをするりと抜けだした。


この人が何を言おうが関係ない。

だって、あたしには、拓海がいるからね。


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本屋を出ると、久々に川原に降りた。


実はこの近くに、あたしだけの秘密の場所があったりする。

久々にちょっと行ってみたくなって。


広い川の真ん中にあるちょっとした島。

中洲っていうのかな?

なーんにもない、草ボーボーのだだっ広いところだから誰も行かないけど、実は川の飛び石を渡ってブロックを登ると簡単に行けちゃうんだよね。


ここがあたしの『秘密の場所』になったのは、小2くらいからだっけな。

それ以前は、屋根裏部屋にこっそり上がって一人になるのが好きだったんだけど。

一度、お母さんが、お父さんに内緒で買ったバッグやらへそくりやらを隠しているところに遭遇してしまってから、何となく『あたしの秘密の場所』な気分じゃなくなっちゃって。

それに、夏は暑いしね。屋根裏部屋は。