「……」


じっとしているのに飽きたのか、拓海があたしから手を離して、周りをうろうろし始めた。

足をひきずって、よたよたと。

明らかに、健康な体ではない歩き方。

それを圭輔さんは、見てはいけないものを見るような、怖気づいた目で追っていた。


「信じなくてもいいから聞いてくれる?」


あたしは彼の大きな目をまっすぐ見て、真剣に訴えた。


「この子、もうすぐ5歳なんだ。

でも、出産時のトラブルでお母さんは死んじゃって。

本人も障害を負ってしまってこうなったの。

未だにほとんど喋れないし、体もこのとおり、うまく動かせない。

この子の母親は、妊娠しても病院に1回も行かなくて。

自宅でひとりで産もうとして、本人は死んで子どももこうなった」

「……」

「ねぇ、美咲さんと一緒に産婦人科に行ってあげてほしいんだ。

んで、ちゃんと健診を受けるように、サポートしてあげて。

美咲さん、あなたと別れたショックでそれどころじゃないから。

生まれてくる子と美咲さんと、あなた自身のために、病院にきちんと行ってほしいんだ」