「これは主としての命令だ」

「聞けません」


 どうして、こんな時ばかり命令するのか。

 いつだって何も命じてはくれなかったのに。

 信頼をくれなかったのに。


「俺に逆らうな!」

「そんなに嫌なら、追い出せばいいじゃない!」


 売り言葉に買い言葉、最早私達は亀裂を深めることしか許されない。

 悲しくはない。

 なのに、涙が溢れそうになって、悔しいのだと思った。

 そのまま、時永の顔を見ることもできずに走り去った。