月夜の翡翠と貴方



イビヤがやはり柔らかい笑みで、マテンの腕を掴み、ミラゼに差し出す。

マテンは憎々しげにイビヤを睨んだ。

…確かにマテンにとっては、先程まで自分に仕えていた人間の、裏切りにあっているのか。

しかし、マテンの睨みなど気にもしないのか、イビヤはやはり微笑んでいた。

…この状況で微笑むと、少し不気味に感じるのだが。


ミラゼがマテンの腕をがっちりと掴み、清々しい顔で玄関をあとにする。


主人が連れ去られているというのに、邸から誰も出てこない。


「…残りの使用人は、たぶんイビヤさんが、ね」

ルトが苦笑いを浮かべる。

…ああ、なるほど。


すると、カナイリー家の邸の前で待っていたのか、数人の役人らしき人間が、ふたりに駆け寄る。

ふたりは快くマテンを受け渡すと、役人のひとりに書類を渡して、柵から外へ出ていった。