月夜の翡翠と貴方



マテンは私を少しの間見つめたあと、「ああ」となにかを思い出したように、召使いの男に言った。


「…枷が、ないね。手枷を持ってきなさい」


…両手首を、ひとつに束ねるもの。

なんて趣味の悪い。

私がもう逃げられないことも、わかっている筈なのに。

男はじゃら、と鎖の鳴る手枷を私の右手首につけると、もうひとつを左手首につけた。

…もう、両手首は自由に動かすことができない。


「…来なさい」


マテンが、私を呼ぶ。

じゃら、と鎖を鳴らして彼の前に立つと、マテンは私の髪に触れた。


「………名は?」


彼の、赤みがかった焦茶色の髪を見つめる。

マテンの目をなるべく見ないように、言葉を返した。


「…ジェイド」


感情を悟られないように。

静かに、淡々と告げる。

マテンは少し考える素振りを見せたあと、ふ、と微笑んだ。


「…なるほど、翡翠玉か。君の髪からだな」


こくん、と小さく頷く。

素振りや口振りを、まるで子供のようにすることで、私は自らを制した。

感情を表に出さず、相手に知られないように。